たとえばそれが始まりだったとして



◇◆◇


――ガタンっ

息を切らし、音を立てて力任せにドアを開ける。

雨音の響く教室にいた二人は、教室に入って来た俺を無言で見つめていた。俺を待ち構えていたかのような視線に戸惑う。

「春日原さんは?」

二人に向かって問う。
ごくりと唾を飲み込んだ。

遠藤が彼女の机に置いてある鞄の中から携帯を取り出し、慣れた手つきで操作する。おい、と思う間もなくその手が止まったかと思うと、画面を見せるように携帯を突き出してきた。

彼女の席へ歩み寄る。躊躇ったのは一瞬で、そっと携帯を受け取り、画面に目を落とすと、メールの受信画面が展開されていた。文面を目で追う。次第に顔が強張っていくのがわかった。

「春日原、さんは」

それは、大まかに言えば放課後会って話したいという誘いのメールだった。送り主は、眞鍋芳之。

「行ったわよ」

途中で切れた俺の言葉に続けるように遠藤が言った。さらりと告げられた事実に、身体が硬直する。

「じゃっ、あたしたちの役目は終わったから。帰るわ。行こうみーこ」

「うん……。じゃあね桐原君」

遠藤は俺の手から彼女の携帯を抜き取り元通り鞄に仕舞うと、呆然と立ち竦む俺には目もくれず、隣で静かにしていた玖上を連れて威風堂々教室を出て行った。

「桐原君! ハルをよろしくね」

ドアを出る直前、玖上は振り返ってそんな事を俺に言った。

「『よろしく』って」

まだ状況が理解出来ない。本当なら、彼女はここにいるはずで、これから一緒に帰る予定だった。隣には彼女がいて、話をして、笑って、そんな安らかなひと時が待っているはずだったのに。