「――じゃあ、俺部室寄ってくから、ここで」

学校に着き門をくぐれば、昨日と同じように桐原君とはここでお別れだ。

「うん、また明日ね」

「まだ一日が始まったばっかなのに“また明日”かー」

「あ、いや深い意味はないんだよ! 次に会うのは明日の朝かなって思ってそれで……」

「はは、わかってるよ。気にしなくていいから」

「あー、うん。じゃあまたね」

「うん、また」

そのまま別れるのがなんとなくすっきりしなくて、私は部室棟に向かう桐原君に呼びかけた。

「あ、桐原君! えと、かなり早いけど部活頑張って!」

「ありがとう!」

桐原君は律儀に振り返って笑顔を見せる。
それを見届けて、私も校舎へと歩き出した。

教室へ向かう途中、考える。
さっき、桐原君にまた明日って言った時、桐原君は残念そうに笑っていた。でもその後私が慌てて言葉を足すと、本当に何でもないように笑ったから、たいして気にしていないのかなとも思う。

やっぱり、朝のうちから“また明日”っていうのはまずかったかなあ。うーん、でも学校が始まったら桐原君と会うことなんて多分ないし。そう思ったら咄嗟に口に出ただけで。べつに桐原君と今日はもう会いたくないとか、そんな意味はないんだけどね。

桐原君気にしてないといいな。

歩きながら考え事なんてしていたのがいけなかった。

階段を上がって廊下に突き当たった時、廊下を歩いていた人と肩がぶつかってしまった。

「わっ、ごめんなさい!」

幸い、お互いスローペースで歩いていたため尻餅をつくなんて事態には発展せず、よろける程度ですんだ。

ぶつかったのは見知らぬ男子生徒だった。ちらっと上履きの色を見ると私と同じ黄色だから彼も二年生ということか。身長は低くもなく高くもなくといった感じで、見目百七十過ぎくらい。

「いやあ、俺もよく前見て歩いてなかったから、ごめんね」

なんとなく、おちゃらけた雰囲気の人だった。髪はブラウンに染めてあるけど制服はほとんど着崩していないからヤンキーまではいかないだろう。いや今時のヤンキーの基準なんて知らないけどね。
人を見た目で判断しちゃいけないとわかっているものの、あまりお近づきになりたくないタイプだと瞬時に判断した。