早退の原因はあなたなんです、とはさすがに言えず、体調は万全なので返事をしてみれば、

「そっか、よかった」

嬉しそうに、安心したようにはにかむ桐原君。
その笑顔に心臓がものすごいスピードで鼓動を早める。
つい見入ってしまって、私の視線に気付いた桐原君は顔を赤らめると視線をさまよわせた。あからさまに動揺しすぎだろ。

私はいたたまれなくなって歩き出した。

「とりあえず学校行きません?」




私の家から学校までは徒歩三十分弱。地元の公立高校なのでもちろん市内。徒歩でも充分通える距離だ。自転車も家にあるにはあるけど、この三十分という通学時間が私にはちょうど良いため、ほとんど利用していない。近くにバスも通っているため雨の日なんかは利用させてもらってる。今のところ通学に不便はない。

ない、けど。

この状況はなんなのだろう。

学校へと歩を進める私。
その推定約十メートル後ろを黙々と歩く彼、桐原君。
家を出て十分あまり、私達の間にはひたすら沈黙が流れていた。
それがなんだって、いや、歩き始めて二、三分あたりからね、視線を感じるわけですよ。誰とは言わないけど、後ろからね。
なんか喧嘩して怒ってる彼女をどうしたものかと悩んでとりあえず追っかけてます的な彼氏の図、に見える。事実無根だけれど私が見かけたら完璧そう思う。
二人とも無言だし、きっと後ろの人は困ったように前の人の背中を見つめてるし、前の人は前の人で振り返る気配もなく歩き続けてるし。誤解される要素有りまくりじゃん。

それはまずい。
このまま学校に近づけば間違いなく誤解される。誤解までいかなくても不審に思われる。自意識過剰とかじゃなく。

私はぴたりと足を止めた。
振り返る。

「桐原君」

まさか私が振り向くとは思わなかったのか桐原君は驚いて足を止めた。
ごくりという唾を飲み込む音は、果たしてどちらのものか。

「あの、歩くなら隣でお願いしたいんだけど」

今度こそ桐原君は固まった。
だけどすぐに我に帰ると、急ぎ足で私の所までやって来た。
それを確認してほっと息をつくと、行こうか、と先を促した。桐原君も一緒に歩き出す。