――トンットンッ

ひょいっと軽くジャンプしながら階段を昇っていく。今日はこの前と違って晴れているから寒さを感じることはない。
やがて視界に入った人影に声を掛ける。

「小春ちゃん」

振り向いたその子は、どこか固い表情で笑った。
彼女と同じ高さに足が着くと、俺はニッコリと笑って言う。

「急に呼び出しなんてどうしたの? まさかとんでもない仕返しとか企んでたりして」

十中八九それはないと思うけど。こうやって茶化さないと彼女の雰囲気に呑まれそうなんだ。これでも割りに緊張してるんだよね。彼女が俺を呼び出す理由が全く思いつかないんだもの。

彼女は慌てて手を振った。

「ちっ違うよ。眞鍋君じゃあるまいし! ……あ」

しまったという顔になる。
面白いくらいわかりやすい彼女にクスクスと笑いが漏れる。桐原も桐原だけど、彼女も相当素直だよなあ。少し、緊張が解れた。

「で、小春ちゃんの目的はなに?」

「目的って……。あのね、金曜日のことなんだけど」

「やっぱりキスしたこと根にもってるんだ。女の子だもんね、初めては好きな人とが良かったよね。ごめんね?」

うん、キスの件に関しては本当、申し訳ないと思ってるよ。感情に任せて無理矢理しちゃったからね。いくら桐原の名前を呼ばれたことに苛立ったからってあんな乱暴なキスはなかったんじゃないかって反省してる。どうせなら、同意のうえで優しいのがしたかった。

しかし、彼女は再び手を振って否定する。

「そうじゃなくて! き、キスのことはもういいの! 忘れることにしたから!」

なんだ。俺が心にもないことを言ったのがバレたのかと思ったけど、違ったみたいだ。彼女がキスのことを気にしてないのは俺にとってホッとすべきことなのに、がっかりした気持ちがあるのは何故だろう。兎に角、彼女の目的は別のところにあるらしい。

「えっと、だからね、あたしが言いたいのは、ほら、あれだよ」

「慰謝料請求とか?」

「だから違うってばっ。眞鍋君はあたしを可哀想な人間にしたいの?」

「じゃあ、やっぱり俺のことが好きとか?」