◆  ◆  ◆

 「これくらいでいいだろ」

ある程度文房具屋の片付けが終了した。
そう、ある程度。

「……この人達どうすんの?」
倒れた男数人の始末がまだ済んでない。

「放っとけ。誰かが通報してるだろ」
「え?」
文房具屋を襲ったらしい借金取りの男数人。そいつらをつるはしで半殺しにしようとミオビちゃんが攻撃して悶着が起きたら、人数の多い駅前ではすぐに誰かが警察に通報するだろう。
けど、まだ警察は来ていない。
片付けは小さい店だったので五分もなかった。
ということは、まさか一分足らずで──
 「な……」
そんなこと。
そんなこと──有り得るのか?

「何だ何だ、警察に捕まるとか心配してくれてんのかい?」
呆然としている俺を余所に、ミオビちゃんはまたつるはしを抱えて帰る準備をしていた。

「君は、どうするんだ」
「勿論逃げる」
にっと笑い、自信満々に答えるミオビちゃん。

「次会うのは月曜か。じゃあな。彼氏くん」
「あ……っ」
爽やかに去っていってしまった。

「つるはし隠せよ……」
呟いて、間もなく遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。

店から出て、俺は何事も無かったように家の方向へと足を進めた。誰も声を掛けてこなかったのは、実に有り難かった。
 ……何故だろう。