……。
…………。

「あの、俺、何か惚れさせるようなことしちゃったかな?」
「してないな。してない」
「いやうんでもさ、名乗ってもない今日顔を知り合いました同士で恋人なんて」

我ながら焦りすぎだ。
告白なら何回かされたことはあるけど、急過ぎて憔悴してしまう。

 「名乗れば良いんだな。あたしは八番。八番ミオビ。忘れたら殺す」

お、脅しときた!
つり目で鋭く睨まれた!
怖っ!
自分情けね!

 「……っお、俺は時雨坂ハルキ、うん、そう。ミオビちゃんね、分かった分かった」

「ふん、恋人ってのは『ちゃん付け』をするんだな。ではハルキちゃんと呼ぼう」

「それはちょっと妙だね……ん? もしかすると、もう恋人って決まっちゃってる?」

「歯向かう気か」

見計らったように、壁に凭れていたつるはしが鈍く光った。

 「とんでもないです」
「そうかそうか。ああ、言っておくが、あたしはある目的があってお前を奴隷にすることにしたんだ。だからその役目は果たしてもらう」
あれ?
いつから俺は奴隷に……?

「……ええと、その目的ってのは?」
「要するに邪魔者排除だ」
「なんか犯罪的な感じに聞こえたんだけど……」

 「あたしは月曜から泉森高校二年B組に入る。すればあたしの命を狙う奴等が出てくる、それを消す手伝いをするのが貴様だ。詳しいことは今は話さんが」
「狙う……? ……、いや、俺そういう専門の人間では」

まず『そういう専門の』人間がいることに驚きだ。

「専門? 馬鹿馬鹿しい。そんなもんに収められて生きていくなんて、ハルキちゃんも随分と小さい男だな」
オールマイティー発言を繰り出したミオビちゃん。
「よく解んないけど、解ったよ」
曖昧に答えて、片付けを再開した。
 まあ、どうせ転入なんてしてこないだろうと思いながら。