「ダメだ。ダメダメ」



流川はもう行っちゃったんだし。


泣いたって、戻ってくるわけじゃない。



「歯を食いしばって飾り付けするってヘンなの……」



こういう作業って、ホントは楽しいはずなのに。


今はただ、ガランとした部屋を少しでもにぎやかにしたいだけでやってることだから。



「でもさすがに流川のオウチだよなぁ。こんなにでっかいツリーがあるんだもん」



なかなか寝付けなくて、結局そのまま朝を迎えてしまった今朝。


寝ぼけてトイレにむかって、間違って開けたクローゼットのなかに偶然見つけたこのツリー。



2メートルくらいあるんじゃないかな。


運ぶのは大変だったけど、なんとか窓際に持ち出して。


イスに登りながら、いっぱいある飾りを取り付けてる状況。



「でーきた!」



2時間くらいかかってようやく装飾完了。


それでもまだお昼。



「ご飯食べたら行ってこようっと」



バイトの時間までまだまだ余裕があるし。


流川とも約束したし。



「カエルのこと探してあげなきゃ」



どのくらい回れるか分からないけれど、周辺のクリーニング店を当たってみるつもり。



カエルもひとりぼっちなんだよね。


流川がいないなら、せめてカエルと一緒にいたいもん。


アイツ、常に笑ってるから、元気付けられそうだし。



「さて、ご飯ご飯」



軽いお昼を食べた私は、うす曇りの外に出た。


いつもより、空気が冷たい。



「流川、無事に着いたかな……」



空を見上げて吐き出した息は、真っ白だった。