「そろそろ、行くな」


「うん」


「気をつけて帰れよ」



それは私のセリフなのに。


どこまでも心配かけるんだな、私って。



「流川も気をつけてよ」


「ああ」



ほほ笑んだ流川は、私の頭に手のひらをのせた。



「まさかお前に背中を押されるとは思わなかったよ」


「え?」


「行くなって言うと思ってたから」


「……」


「驚いたけどな」


「……私、少しは、役にたった?」



心配かけてばかりだけど。


面倒みてもらってばかりだけど。



「彼女らしいこと、ちょっとはできたのかな?」



ははっと笑ってみせると。



「ありがとな」



手のひらをそっと動かして、流川は笑顔でうなずいた。



……よかった。


その言葉だけで十分だよ、流川。



「はじめて“ありがとう”って言われた。流川に」


「そうか?」


「うん。快挙だ、私」



ふっと笑った流川の顔に。



「またね」



つぶやいて。



「いってらっしゃい」



精いっぱいの笑顔で言った。