「あっ、あのねっ!」



急に顔を上げた私に、目の前の流川の目が見開いた。



「またか。こんな至近距離で大声出すな。なんか飛んで来ただろ今。汚ねーな」


「安心して行っていいからねっ!」


「あ?」


「心配しなくていいからっ、私のことはっ!」


「ああ……。てか、そんなに気合い入れて言うことねーから」


「アパートに戻るまで、流川の部屋もわだぢが守るからっ!」


「……だから。気合い入れなくていいっつーの」


「ガ、エルも、が……ばってさがすからっ!」


「……」


「い……い……いっでらひゃいっ!」


「……」



数センチ先のキレイな顔の流川と。


たぶん、顔面崩壊中の私。



「ふ……。おもしれー顔」



流川、失笑。



「鼻の穴全開だぞ、お前」


「ふー……ふー……ぅ」



分かってるよ。


必死でこらえてるんだもん。



「お……ふぉい返されたく、ない、もん」


「うん」


「ギ、リギリまで、見送る……んだから」


「うん」


「泣かないって……や、くそく、ぢたから」


「ああ、エライな」



流川の両手が頬を包んで。


周りの人に、気づかれないくらいの早さで。


――ちゅっと軽く唇が触れたあと、



「お前が頑張ってるんだから、オレも頑張らねーとな」



頬を降りて、背中に回された腕の中、



「……少しだけならいいぞ? 泣いても」



許可を下した優しい声に。



「……うぇーん……」



こらえていた涙は、あっけなくこぼれた。



いっぱい、


いっぱい、



こぼれた。