「やだ……流川と一緒にいれないなんて……やだ……」



じんわりと込み上げてくる不安と寂しさに、涙声が出る。



「唯衣、説得しなよ。行く方向じゃなくて、行かない方向に」



麻紀の手が、肩にのった。



「ね? 流川直人だってきっと、唯衣と離れたくないから決められないでいるんだよ」


「……そうなのかな」


「そうだって。唯衣の言葉次第だよ。アンタが行くなって言えば、流川もほっとしてそうするはずだって」


「……うん」



麻紀の言葉に、少しだけ落ち着いた私はうなずいた。


こぼれそうになった涙も引いていって。



「もうじき帰ってくるでしょ、流川直人。ちゃんと話聞きなよ」


「うん」


「ピザ、ガマンして帰るからアタシ。一緒にいてあげてもいいんだけど、ほら、アタシが入るとごちゃごちゃになる可能性があるでしょ? 自分で言うのもなんだけど」


「うん。そうだね」


「そうだねって。ま、しっかりね」


「うん」



帰る麻紀を見送った私は、


理恵子さんの番号が書かれたメモ用紙をポケットに入れてから冷蔵庫の扉を開けた。



2人分の食材を並べて、まな板を取りだして。


包丁を握ると、薄っすらと残る指先の傷跡が目に入った。



怒りながらも、ちゃんと手当してくれて。


優しいのか、そうじゃないのか、よく分かんないヒト。


でもたぶん、私のことを一番に考えてくれてるヒト。



「……流川」



この数週間で起こった出来事をひとつひとつ思い浮かべながら、トントントンと手を動かした。



もうじき帰ってくる、大切なヒトのために。