男の言葉に黙って立ち上がり、彼女に右手を差し出した。

「帰ろう。話するだけ無駄だよ。コイツ、自分の事しか考えて無い」

「つうかさ、さっきからずっと思ってたんだけど、何でことみの目見て話さないの?何か後ろめたい事でもあるのか?」

「…帰るよ」

男の言葉に耳も傾けず、黙ったまま手を差し伸べた。

僕の手を握りながら立ち上がると、鞄から封筒を取り出し、テーブルの上に置いた。

「これで最後にして。さようなら」

「ま、待ってくれよ!ことみしか居ないんだよ!頼むから側に居てくれ!」

彼女が踵を返した途端、人目も気にせず、突然涙を流した男。

黙ったまま僕の手を握り締め、急いで店を後にした。

話の内容で二人が同棲し、彼女が子供を降ろした事はわかった。

…でも、何で今だに?あの封筒って金だろ?ことみちゃんは何であんな奴に?…

いくつもの疑問が浮かび上がったが、答えは彼女にしかわからない。

「瞬くん、今から家に来て。全部話すから…嫌われちゃうかもしれないけど、協力してくれたから全部話すね」

「…わかった。話してて辛くなったら抱き付いて来てね?俺が家に帰るまで、彼氏で居るからさ」