彼女が会社を出た後、セキュリティをかけてから会社を後にした。

ずっと出入り口の前で、僕を待ってくれていた彼女。

「家、近いんですか?」

鍵をかけている僕に、彼女は何気なく聞いてくれた。

「はい。ここから歩いて10分位です。こと…神田さんは近いんですか?」

「歩いて15分位です。ちなみに方向ってこっちですか?」

彼女が指差した方向に頷くと、彼女はニッコリ笑いながら言ってくれた。

「凄い!偶然続きですね!同じ方向なんで、途中まで一緒に帰りましょ!」

「はい」

はじめて彼女の目を見ながら発した短い言葉。

他愛も無い会話をしながら歩く、夢のような一時。

このまま時間が止まって欲しい…

このまま離れたくない…

本気で思った時、彼女は信号の先を指差した。

「あたしこっちなんです」

「俺あっちだけど…家まで送りますよ」

「ダメです!疲れてらっしゃるんですから、早く帰ってゆっくりして下さい」

優しく微笑む彼女が愛し過ぎて…

このまま離れるのが嫌過ぎて…

鞄を持つ彼女の小さな手を握り締めた。

「…送らせて下さい」