「…彼女に何したんですか?」

ジッと睨み付けながら聞いてくることみちゃん。

江川さんの名誉を考えると、話さない方が良いとも思ったが、うろたえながら真実を話す事しか出来なかった。

「あ…あの…彼女に携帯の番号渡されそうになって…受け取れないって言ったら…」

「受け取る位良いじゃないですか!」

「…受け取れないよ。彼女、クビになるじゃん」

黙ったまま店に戻って行くことみちゃん。

店内に消えて行く小さな背中を、呆然としながら眺める事しか出来なかった。

ため息をつきながらレジに向かい、紙とペンを借りた後、携帯の番号と名前を書き、彼女のスクーターのポケットに入れた。

今の自分に出来る、最初で最後の行動。

部屋に戻ろうとすると、彼女は黙ったまま横を通り過ぎ、店を後にしてしまった。

儚過ぎる気持ちがハッキリとした瞬間、彼女は黙ったまま夢の中と同じように、暗闇の中へ消えて行ってしまった。