確かにヒデの言う通り、今日の勝ちは、完全に彼女がルール違反をしたお陰。

お礼をしたい気持ちはあるが、お礼をしたら彼女が店をクビになる。

彼女がクビになったら、もう二度と会えないし、口下手な自分が堅い彼女を誘い出す術も無い。

今以上に近付け無い現実の距離と、現実以上に近付いている夢の中の距離。

夢の中のように彼女と話をしてみたいが、今以上縮める事の出来ない現実。

…俺、彼女の事好きなのかな?…

頭にふと過ぎったが、誰にも話す事が出来ない。

過去に1度だけ、ヒデに恋愛の相談をした事があったが、散々冷やかされた挙げ句、『頑張れ』の冷たい一言で終了。

大島さんに話せば、強引にでもきっかけを作ってくれそうだが、あの人は口が軽過ぎる。

誰にも何も言えないまま、密かな思いを胸に、話しかける事の出来ない彼女のいる店へ、毎日のように通っていた。