心の距離

小さく鼻で笑いながら席に戻り、ハンドルに手をかけた。

すぐに当たりを引いた時、清潔感溢れる香りが鼻を刺激した。

待ちに待った彼女。

3回目の当たりと言う事も忘れ、彼女が箱を降ろしている最中、小さく咳払いをし、彼女に話しかけた。

「あの…音、小さいんですけど、デカくなりませんか?」

「え?あ、大当たり終わったら、調整しますね」

「…今は無理ですか?」

「台、開けられないので…申し訳ありません…」

困った表情の彼女を見ていると、罪悪感に襲われた。

音が出ない台と言う事も知っているし、台を開けても直らない事も、当たり中に台を開けられない事も全て知っていた。

…ウザいって思われたかな?マジでどうしよう…

少し焦りながら大当たりを消化すると、彼女は真っ先に歩み寄って来た。

「お席の方…」

彼女が言いかけた瞬間立ち上がり、台を直す彼女をいつもよりも近い距離で眺めていた。

真剣な表情で台を直す彼女。

時々スピーカーに手を当て、音が出ているかどうかを確認する仕草に、みぞおちの少し上が強く締め付けられた。