春樹さんの家に着き、ソファに座ると、春樹さんがウイスキーの瓶と氷の入ったグラスを運んでくれた。

「死ぬ程飲んで、腹の中のモン全部吐けよ」

「でも、奥さん寝てるんじゃ…」

「実家に行ったよ。再来月産まれるからな。遠慮すんな」

軽くグラスを合わせた後、ウイスキーを一気に飲み干した。

飲み慣れていないせいか、いきなり目が回り、ソファに凭れかかった。

「効くだろ?」

「はい…すげぇ目が回ってます」

「彼女には話したのか?」

小さく笑いながら、いきなり核心に触れた春樹さん。

「…いえ、何も言えなかったんです。チャンスは幾らでもあったのに…何も言えませんでした」

黙ったままグラスに酒を注がれ、春樹さんの優しさに甘えるように、飲みながら話続けた。

「俺、彼女がパチ屋に居た時から、彼女に近付く為にすげぇ必死でした。
彼女、いきなり消えちゃって、別の子に最悪な事されて…俺自身、マジで終わってました。
うちの会社に入った時、無茶苦茶嬉しかったんですよ。
『やっと会えた!』って思ったけど、彼女は俺の名前すら知らなくて『のど飴のお兄さん』って呼ばれた時、すげぇ嬉しかったけど、超切なかったです」