心の距離

言葉も交さないまま、僕の腕の中で眠ってしまった彼女。

彼女を起こさないようにベッドから降り、物音を立てないように服を着た後、静かに家を後にした。

本当は彼女の隣で眠りたかった。

でも、夢の中の出来事なのに、目が覚めた時に隣に居たら、全てが台無しになってしまう。

帰宅した後、シャワーを浴びる事も、着替える事も無く、ベッドに寝転んだ。

体は疲れ切っているのに、頭が冴えて眠れない…

ただ、呆然とさっきの事を思い出し、何も無い天井を見詰めていた。

はじめて間近でジッと見詰めた、全てを見透かされてしまいそうな彼女の澄んだ瞳。

彼女の滑らかな肌も、柔らかな体も、悩ましい声も、夢の中だけの出来事にしたいのに、ハッキリと体中に記憶されている。

以前よりも、彼女の心に溺れてしまった自分。

夢の中の人なのに…

夢の中で起きた事なのに…

心の距離を近付けたい…

目覚ましの音が鳴り響き、重い体を無理矢理起こすと、ため息ばかりがこぼれ落ちた。

…もう起きてるかな?寂しがって無いかな?辛くないかな?会社に行けるかな?…

頭に浮かぶのは彼女の事ばかり。

シャワーを浴びた後、全く眠れないまま仕事に向かった。