案の定、彼女は何度も玉でいっぱいになった箱を降ろし、空き箱を手渡して来た。

彼女が近付く度に、清潔感溢れる香りが鼻を刺激し、大当たりを引く度に、少しだけ鼻にかかる声が耳を刺激した。

最初はそれだけで満足していた筈なのに、『声を聞きたい』と言う小さな望みは『会話をしたい』と言う願望に変わっていった。

普段は話す事すら面倒臭いと思うのに、女性と会話をしたいと思う事なんか生まれてはじめてに近い。

仕事中も会話をするきっかけを探したが、全く見付からない。

毎日のようにパチンコを打っているせいか、玉が詰まりやすい台や、スピーカーの壊れている台が何処にあるのかもわかって来ると同時に、顔とタバコを覚えられてしまい、唯一、彼女と一対一で話す時間が短くなってしまった事が、嬉しくも悲しく思える。

…声出さなくてもわかってくれちゃうもんなぁ。何か話しかけるきっかけ欲しいな…

ボーッとしながらパチンコを打ち、タバコに火を点けた時、台の音が出て無い事に気が付いた。

…この台、音出ないからつまんねぇ…

ため息をつきながらタバコを揉み消し、立ち上がろうとした瞬間、彼女に話しかけるきっかけを思い付いた。