心の距離

彼女が冷たく当たるのは、自分の責任だと言う事もわかってる。

彼女が笑顔を見せないのも、他人行儀な態度を見せるのも、自分の責任。

自分の撒いた種とはわかっていても、苛立つ気持ちを抑える事が出来ず、うつむきながら小さく呟いた。

「…何も知らないクセに」

「もう閉めますよ?」

冷たく言い放った後、僕の横を通り過ぎる彼女。

黙ったままソファを蹴り、会社を後にした。

会社の鍵を閉める彼女の背中を眺めていると、強く抱き締めたい衝動に襲われる…

会社の前で抱き締める事も出来ず、黙ったまま彼女の後を追いかけ、いつもの信号で口を開いた。

「…送るよ」

「結構です」

「送らせてくれ」

「誤解されたらどうするんですか?」

「誤解されても構わない。俺が会社から消えるだけだよ…」

「…聖みたいな事言わないで」

うつむきながら小さく言い放ち、走り出してしまった彼女。

不意に聞かされた嫌な奴の名前と、嫌な事を思い出させてしまった事実。

暗闇の中に消えて行く背中を、追いかける事も出来ず、ただ呆然と立ちすくむ事しか出来なかった。