洋司に詰め寄られて、どうしようかと思ったその時だった。

ピルルルルルル…ピルルルルルル…

支給された携帯への着信。ごめん、と洋司に一言断り、電話に出た。

「はい、杉本です」

『あ、京子ちゃん?ごめんね、今大丈夫かな』

「あ、ハイ。大丈夫です。事件ですか?」

自分はまだ配属されてから日がたっていないため、現場には行ったことがない。と言うよりも、一課が動くような事件が、そこまで頻繁に起こっていないということもある。

『実はちょっと人手が足りなくて。もし京子ちゃん出てこられそうだったら来てほしいんだけど』

「わかりました。場所は?」

『悪いね、場所は中央区の月島の駅近くだ。駅のあたりまで来てくれたら迎えに行くからそれじゃ』

「はい。すぐに向かいます」

正直言うと、内心ほっとした。仕事を口実に、この場からとりあえず逃げ出せる。

「何かあったのか?」

洋司に言われて頷いた。

「ごめん、事件が発生したって。今から行かなくちゃ」

別れ話をしている最中ではあるが、このままではこっちも埒が開かなくなる。そう思うと、時間を置くことができると少し安堵したのだった。

「…気をつけてな。お前が行くってことは、なんか危ない事件の可能性もあるんだろ?」

言われて思わずくすっと笑った。

「大丈夫だよ。私が呼ばれるくらいだから、そんなに事件性は低いかもだし」

そう言って、その場を離れようとする私の腕を、洋司が掴んできた。

「京子、気をつけてな。それと…俺、お前と別れる気はないから」

そういうと、ぐいっと引っ張ってきて、短く洋司はキスをした。

「ちょ…!」

「気をつけて行って来いよ」

そう言い残して、洋司はその場を離れていった。