しばらくして酔いが回ってくるとだんだん、聖司の私に対する接客は一体なんだったのだろうと思い、虚しくなってきた。
聖司はカッコ良いし、優しいし、煽らないし、とても良いホストだった。
でも何かが物足りなかった。
何かが不満だった。

ハヤトに出会い、その物足りなかったものにようやく気付いた。
聖司には、「素」が無かったのだ。
それはホストとして考えれば当然のことだと思う。
接客するときに「素」を見せていたら、ホストとして売上を上げるのは難しいだろう。
しかし、たとえ「素」でなくても「素」であるように見せてほしかった。

「素」では無い聖司に対して、猫の皮を被った私。
そんなお互いよそよそしい雰囲気で、心から楽しめるわけが無かったのだ。

聖司の様に、優しくても「素」が見えないホスト。
ハヤトの様に「素」であるように見えるホスト。
色んなホストが居る。

私には、聖司の様な一線を引いた接客をするホストは合わなかった。
ホストは好きだけど、きっとホストらしいホストは苦手なのかもしれない。
そのことにようやく気付いた。

ホスクラに通っていて、後悔することほど損な事は無い。
このまま後悔せずに、聖司のことはすっぱり切ろうと決意した。
毎週のように通っていた時期もあったので、担当としての情はまだある。
しかし聖司は私の求める担当では無かった。

隣に置いてあったカバンからケータイを取り出す。
私のケータイストラップには、聖司と一緒に撮ったプリクラが貼ってあった。
それを後生大事にケータイに付けている自分が馬鹿らしく感じて、
ハヤトに向かって「このストラップ取って!」と言った。
するとハヤトは、そのストラップを無理矢理引きちぎり、そのままアイスペールの中に放り込んだ。

その行動を見て、私は笑ってしまった。
なんだ。思い出なんて、未練なんて、こんなに簡単に捨てれるもんなんだ。
笑ったことで気分がスッキリした。
スッキリついでに、着信拒否とメール受信拒否設定もした。

何もかもスッキリした。