ホストらしき人が目の前を通るたびにドキっとしながら、何度も何度も左手首に着けている時計を確認した。

長針が10分を指し示した頃、ようやくハヤトはやってきた。
その格好は…

着古したせいか少しヨレヨレになった薄ピンクのTシャツ。
ホストの好む細身とは正反対な、だぼついたジーンズ。
そして足元はビーサン。
この頃のハヤトはお金が無いため、ヘアーセットもしていなかった。

これは、そこら辺にいる普通の兄ちゃんだろ。
間違いなくホストに見えない。

でもその顔はやっぱり何度見ても「私好み」だったので、どんなにラフな格好でも文句は全く無い。
むしろ同伴というより、普通に友達と一緒に飲みに行く感覚で、
これはこれで良かった。


「前の」担当との同伴では、行くお店は全て相手にお任せしていた。
しかしハヤトは札幌が地元では無いため、まだここら辺の飲食店には詳しくないようだった。

「いつも同伴でどこ行くの?」
と聞いたら、同伴は今回が初めてのようで、結局私が適当にチェーン店の居酒屋を選んだ。

実はこの時ひそかに、ハヤトの初同伴の相手が自分であるということに喜びを感じていた。
慣れていないということで頼りなさは感じるが、何事においても「初めて」は印象に残る。
今日の同伴が、ハヤトの中で「初めて」の思い出としてずっと残っていてくれればいいなと願った。


まだハヤトと会うのは3回目で若干人見知りしていた私だが、
ラフな格好のハヤトのおかげか、開放感のある広い店内の居酒屋のおかげか、
まったく緊張感の無いまま、楽にハヤトと食事をすることが出来た。

「前の」担当と一緒に居るときは「良い客」を演じるために、猫の皮を3枚は被ってていたので、
自然体でいられる居心地の良さに感動した。


しばらく会話を進めるうちに、聞き上手なハヤトに導かれるまま、
私はつい先月まで通っていたホスクラの話をしていた。

「前の」担当が聖司という名前で、「Prism」というお店のナンバーホストであること、どんな営業をされて、どのぐらいの頻度で通って、どのぐらいの期間通っていたか。
気付いたら色々語っていた。