「…なんで嫌いなの?」

「べつに。ただ昔…」


 姉と無邪気に遊んでいた僕は、名前も知らない親父の所為で冷たい海の中に溺れてしまった。
 その時、僕は3日間眠ったままだったらしい。


 あまり当時の記憶は残っていないが、それでも海を見るたび全身に寒気が走るのだ。


「昔…?」


 彼が不思議そうに覗きこんでくる。


「…なんでもない。というか、君に話す義理はない」

「なんでだよ」

「名前も知らない君に、こんな話までする必要ないだろ」


 あ。
 そうだ。

 僕は彼の名前を知らないんだ。


 自分で言って思い出した。