「新潟だって何もないよ」

「そうか? 少なくとも海はある」


 たしかに。
 埼玉には海がなかったな。


「あぁ…前の家は、窓から海が見えた。でも、僕はあまり好きじゃない」

「海が?」

「うん」

「へぇ。海で育っときながら海が嫌いだなんて。―― 変わってるな、アンタ」


 彼が可笑しそうに笑う。

 僕は少しムッときた。


「その言葉、そのままそっくり君に返すよ」


 そう強く言い返してみると、


「最高の褒め言葉だ。人と違うってのはいいことだ」


 彼はさらに可笑しそうに笑ってきた。
 だけど、すぐに笑うのをやめて聞いてきた。