君はここにいた。




「そうでもねぇよ」



 怪訝そうな槝木の声。



「俺、女喜ばせることできねぇし」



 ボソッとつぶやくようなその声は、なんだか少し寂しそうな気もした。



 それに気づきながらも、俺は思わず笑ってしまった。




「それは、その場しのぎで気持ちがないからじゃん。喜ばせようとも思ってないだろ」


「お前、案外言うのね」




 槝木は少し驚いたように目を見開いて、それから急に下を向いて黙り込んだ。






 それは一瞬だったのだけど、
 この時の俺は、なんだがとても長く感じた。