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数歩先を歩く、彼女の背中を見ながらの朱い家路。


彼女は踊るようにくるくると回る。


スカートが広がって、閉じる。


「どうして、校則は存在するのかしら」


「さあ?」


不思議と、右手が襟元に伸びる。


「約束事を守る、練習ですかね」


適当に答えると、彼女はうっとりと顔を歪めた。


「規則は、破りたくなるものでしょう?」


ペロリ。


舌舐め擦り。


僕は訳も分からず頷く。


「だから、敢えて規則を設けるの」


サラリ。


黒髪が揺れる。


僕は彼女に追い付いて、首を傾げる。

よく分からないという意思表示。

彼女は喉の奥で笑うと、

「本当に破ってはいけない決まり事から、目を逸らせる為に」

そう言って片目を閉じた。


目の前には横断歩道。


信号は、赤。

危険だから入ってはいけないという合図。

僕は止まり、彼女は歩く。


「どうしたの?ここ、車は中々通らないわよ」


知っているでしょう?


彼女はおいでと手招きをする。


ここで規則を破っても、誰も見てはいないから。


僕は一歩踏み出そうとして、彼女は突き放す一言を忘れない。


「ところであなた。人を殺してはいけないって、誰かに言われたことはある?」

それは言うまでもなく当たり前のこと。


けれど誰も口にはしない。


彼女の言葉が思い出されて、僕はゆっくり襟元から右手を離した。


赤信号。


横断歩道の始まりで。