岩山を伝い、
ようやく、海水浴場が
見えてきました。

「あれ?」

タケシは、更に
異変に気が付きました。
今度は、
耳が聞こえなくなった
だけでなく、
目がおかしくなったのか、
海水浴場にいる
人々が動いていません。
ピクリとも…。

 海に駆け出そうとする
男の子、ビーチボールで
戯れるカップル、
そして、今にも、
海の中に飛び込もうと、
ジャンプする男性、
その人を見ると、
タケシは驚愕しました。

「浮いたまま…。」

ジャンプしたまま、
空中で止まっているのです。
それは、マジックではなく、
明らかに浮いています。
恐る恐る
その男性に触ってみると、
人間の温かさが
あるのが分かりました。
しかし、
どんなに触ろうが、
声をかけようが、
挙句の果てには、
叩こうとも、
男性は無反応です。

「心臓は止まってる…。」

男性の胸に耳を当てると、
脈打つ音は
聞こえませんが、
確かに、
温もりはあるのです。