慌てて振り返ると
初老の男性が尻をついていた


「すいませ…! 切るよ
またかける 」


『はい 』
プツ


「すみません あ 」

自力でスッと立ち上がった銀の頭は
俺より少し高かった

スーツは黒のイタリア製
えんじ色のシャツに、サングラスをかけている


「I'm really sorry! えっと」
節の長い指に、
落としたパンフレットを拾って渡した



「平気です 日本語話せますよ
ありがとう」

「いえ こちらこそ
よそ見してました 」



「君は、俳優さん? 」
口元のヒゲの下から、
迫力ある雰囲気とは裏腹に
白い歯と人懐こい笑いが現れた

…けれど
こういう人こそ注意して付き合わないと
怖いのだ



「いえ 違います
ただの映画好きです 」

…なんか今日こういうの多いな



「そうですか
とてもオーラを出していたから
時間が近いので行きます

それでは」


そういって彼は名刺を差し出し
俺はそれを受け取った




オーラはあんたのが凄いよ…と
思ったが、言えるはずも無く



名刺を見ると

質の良い、えんじの紙


Eri    r と名前

細い金箔押しの文字が
陽射しに反射してよく見えない


裏には
会社か何かの電話番号と
携番が書いてあるだけの
シンプルな物

財布にそれをしまっていると
開場の放送がかかり
急いで俺はホールへと歩いた