なるべく、おじいさんを
見ないようにして、座椅
子に腰掛ける。

手が震えないように祈り
ながら紅茶の入ったカッ
プを一つ、おじいさんの
前に置いた。

その後、おじいさんに触
れたいのを我慢しながら
自分のカップを取った。

一口すする。

「おじいさん、美味しい
ですよ」

おばあさんが心の中で、
そう言ってもおじいさん
からの返事は無い。

「バサバサ」

一際大きな音でキンカン
の枝葉が鳴る。

キジが紅い太陽に向かっ
て飛んで行く。

おばあさんは、キジの後
ろ姿が小さくなるまで見
つめていた。

「おじいさん」

おばあさんは、皺(しわ)だらけのおじいさんの手に触れた。

「幸せでした、こんなになるまで一緒にいられて」

紅茶に浮かんだキンカンが
プカプカと揺れた。