奏はメモをとると何も言わず中へと行ってしまう。
かなりご立腹の彼に依奈は目を瞬きさせた。
「薫くん、何かしたの?」
依奈の言葉に薄く笑い、口を開く。
「アレが嫌なんちゃう?」
アレ?ってなんだろう。
薫が指差した方向を見れば、女性客が何やら騒いでいる。
「超可愛いよね!」
「奏くんだっけ?かなりタイプ!」
「後で一緒に写メとってもらおうよ!!」
ああ、なるほど。
騒がれるのが嫌なのか。
「なんとなく、わかった気がする…」
「そやろ?まあ、オレは女の子好きやでいいんやけど。」
女好きの薫に呆れた恵美はさっさと仕事に戻れと言って背中を押した。
「じゃあ、また後で。」
にっこり、
営業スマイルでその場をたった彼に執事が似合うと実感したのだった。
*
「…なんで、アイツがいるんだよ…」
関係者専用の扉付近の壁にもたれかかり、奏はしゃがみこむ。
こんな格好の自分を見られたくなかったのに。
