「恵美ちゃ「幾多依奈。」
10メートルくらい先の恵美の元に行く前に、肩を捕まれる。
吃驚して振り向けば、そこには佐藤悠真の姿。
奏の先輩。あたしと同じクラスの不良。
「っあ、あ、!?」
声が上手くでない。
依奈はそのまま腕を掴まれ、引っ張られていく。
生徒はテニスの試合に熱中している為、二人に気付かない。
「っ、は、なし、て!!」
「…」
体育館裏まで来たとたん、急に腕を離される。
体制を崩して尻餅をつけば、佐藤悠真は見下したように笑った。
「おいブス、お前、何かしてんのか?」
「え、何かって…?」
「習い事。」
「昔、空手してた…だけ」
おどおどと答えれば、面白そうに口元を緩めた。
「橘薫、知ってるか?」
「…今朝、挨拶してきたこ?」
「ああ、」
どうしてあたしが佐藤悠真と話してるのか分からない。
ただ、どうしようもなく怖い。
