生徒達は依奈から視線を外す。
目立たない彼女に、誰も注目していない。

悠真以外、見ていなかった。

「っ!?」
スッ、
顔面にあたると思われていたテニスボールは当たらなかった。

否、彼女が避けたのだ。
「あ、ぶない…」
あたる所だった。

あのままだったら顔面に当たっていたに違いない。

(…避けた、だと?)
単なる気のせいかもしれない。

悠真は隣の男子生徒が拾ったテニスボールを奪いとるとさっきよりも力を込めて投げた。

バシっ!
「うきゃっ!」
悲鳴をあげながらも、依奈は手で受け止める。

反応はかなりいいらしい。
「…おもしれえ」

悠真は口元をつり上げる。
「さっきから、あたしにボール投げてくるの誰なの!?…危ないなあ…」

恐怖のあまり泣けてきた。
小さい頃に空手を習っていたために見切る力はある。…奏くんには敵わないけど。

ずれた眼鏡をかけなおし、依奈は怖くなり恵美の元へ走っていった。