真柴君は伊織ちゃんを見ると、少しだけ微笑みを浮かべて「よろしく」と言った。
伊織ちゃんは言葉にならなかったのか、お辞儀だけする。
会話が無かった真柴君は伊織ちゃんから視線を離すと、今度は私の背後に視線をやって目を細めた。
「天音、お前はウソツキ決定」
「え?」
「見なくてもいいが、その元気のない顔の原因がこっちに向かって歩いて来る奴なのは理解できた」
その言葉に伊織ちゃんが私を見る。
「結衣、このまま帰ろうか?」
「でも……」
正直帰りたい気持ちはある。
だけど、華原君のテニスが見たいし応援もしたい気持ちもあって……
それに、伊織ちゃんだってきっと真柴君の応援したいと思うし。
「友達は優しいな。けど、ここで帰るのはオススメできない」
真柴君はそう言うと、ついて来いと言って階段を下り始めた。



