金曜日、帰ろうとしていた私をテニスバッグを肩にかけた華原君が呼び止めた。


「結衣!」


トクンと心臓が一瞬だけ高鳴って、教室の扉の前で立ち止まった私。

すぐ側には私を迎えに来てくれた伊織ちゃんがいて、伊織ちゃんの視線も私と同時に華原君に向かう。

華原君はチラッと伊織ちゃんを見てから私に話しかけた。


「お前さ、明日ヒマ?」

「明日? うん、予定はないよ」

「そっか。じゃあさ、試合見に来ねえ?」


華原君が少しだけ優しい瞳で私を誘う。

あの公園で会ってから数日、私と話す華原君はこんな表情をよくしてくれるようになっていた。

会話する頻度も前より増えていて、休み時間もどちらかに予定がない限りはいつも一緒で。

距離が縮まって行くのが自分でも分かった。