恋の唄



「……結衣……」


名前を呼んでみても虚しく部屋の空気に溶けて消えて。

ふいに、枕元に置いてあった携帯が震えた。

送信者は海。
昨日のうちに今日の待ち合わせ場所なんかを決めてなかったから、その確認メールだった。

目的地は、結衣の家。
時間は18時。

だからそれに合わせた場所と時間を指定してメールを返すと、俺は気が進まないまま身体を起こした。

行きたくなんかねぇ。

結衣の、通夜なんかに。

ガキだって思われたって構わない。

それでも俺は、結衣が死んだ事を認めたくないんだ。

だって俺たちはまだ始まってもいない。

始まるはずだったのに、告げるはずだったのに……


「…っ…」


また、蘇る最後の光景。
それからどうにか逃れたくて、俺は自室を出て親がいるだろうリビングへと向かったのだった──‥