恋の唄



錆びついた音と共に屋上の扉を押し開ける伊織ちゃん。

「ありがとう」と漏らせば、伊織ちゃんは横目で私を見て、口元に笑みを浮かべただけだった。


青空はどこまでも広がっていて、自分がどれだけちっぽけなのかと思い知らされる。

白い入道雲に、いつだったか授業中に華原君が言った言葉を思い出してしまう。


『あれ、食えたら最高なのに』


華原君らしい言葉に笑い合った温かい記憶。

涙が、出そうになった。


「結衣? 大丈夫?」


いつの間にか心配そうに私を見ていた伊織ちゃんに「大丈夫」と告げて。

ベンチに並んで座るとお弁当を広げた。

伊織ちゃんからは何気ない会話。

昨日観たテレビの話しだったり、兄弟との笑える話だったり。

それを聞いて笑って。
けれど、本当に笑えているのかと、どこかにいる冷めた自分が言っていた。

辛くて泣きたいくせに、と責める。