授業終了のチャイムが鳴り響き、何処か緊迫した空気だった空間が、一気に力の抜けた撓んだ糸のように弛む。

俺は夢の世界から戻ってきて、答案用紙を集めている奴に適当に渡してから、消しゴムとシャーペンをペンケースにしまった。


「鈴音(リンネ)、どうだったァ?」


後ろから声をかけられ、俺はゆっくりと顔を上げた。

そこに居たのは、入学当初から何かと仲良くなることができた愛澤実(アイザワ マコト)だった。

出席番号は大抵一番になるであろう彼は、一番前の席で教師にガン見されていた。


「あー、1番解いて後は寝てた。xとかyなんて人生に必要無いっしょ」


俺は苦笑混じりに言う。

これは本音だ。

愛澤も頷いた。


「だよな、実際四則演算が出来れば生きてけるしょ、世の中」

「そーそー。つーかお前頭良いし問題無いべ」


俺はカバンに問題用紙を突っ込みながら、補習は面倒だなぁと思った。