あっというまにあたしの家に着いてしまって
「もうちょっとゆっくり歩けば良かったなー」
毎回思うこの気持ち。
別れがとてつもなく惜しい。
「あれ以上ゆっくり歩いたら朝になるっつの。」
「陽介とならいいもーん。」
「あそ。」
飽きれ気味の陽介だけど、もう慣れっこ。
いいの、別に。
「陽介、ワンちゃんは?」
未だに陽介の右手を独占中のワンちゃんにあたしが目をやると
「これは日曜日に渡してやるよ?」
「えー…?」
今でも別にいいのに。
なんて思ったけど、やっぱり誕生日プレゼントは誕生日じゃなきゃだよね!
って少し前向きに考えて、
「わかったよ。」
日曜日の楽しみがまたひとつ増えたことがあたしもうれしい。
「じゃーもう家の中はいれよ。」
「えー…じゃあ、チューして?」
別れ際、いつもあたしのこのせりふであたしたちはキスを交わす。
触れるだけのほんの一瞬のキス。
けれどあっという間にあたしの心は満たされて。
すごく幸せになれる。
「おやすみ。沙月。」
そう言って来た道を戻っていく陽介を見送るのもあたしの日課。

