「沢村若菜です。迷惑をかけることも多いと思いますが、よろしくお願いします。」


ペコリとお辞儀をして顔を上げると、正面にカワサキが立っていた。

私と目が合うとニヤッと笑い、いつものように八重歯をのぞかせる。

今年、この研究室に配属された3年生は2人。

私と、


「波多江大樹です。」


ハタエくん。

私は彼のことを研究室が一緒になるまで知らなかった。

いや、顔は何度か見た事あったけど、名前まではわからなかった。


「じゃあ、沢村さんは窓側の席で、波多江くんはそこの真ん中の席。でいいですよね?川崎さん?」


今日、先生は学会でいないらしい。

仕切っているのは4年生のミナミさん。

私が来るまでは、この研究室唯一の女の子だったみたい。


「俺に訊くより、シゲに訊いた方がいいんじゃない?シゲが挟まれることになるんだし。」


シゲって……、シゲヤマ?


「僕は構いませんよ。」


シゲヤマが笑顔で言う。

あんたは構わなくても、私が構うっての!


「じゃあ、そういうことで決まりっ!」


さっさと話を切り上げると、ミナミさんは自分の席に戻った。

その隣の席にカワサキが座る。

って、オイ!その席、私に譲れーっ!


「よろしくお願いしますね。」


シゲヤマが笑顔で言うので、私も応えた、引きつった笑顔で。