「真那…こっち来い。」
自分の方に寄せるべく、細い手首を掴む。
「やっ…」
「違うって。扇風機の前に来い。汗だくじゃねぇか。」
襲われるわけじゃないとホッとしたのか、ズリズリと立ち膝で寄って来る。
ようやく風に当たり、少し気の抜けた顔をした。
―隙あり。
真那の肩を片手で抱き寄せ、腰に手を回し、体をホールドした。
「なっ…ちょ…」
俺の腕から逃げられないのを知っていながら、必死で抵抗する真那。
…小さい頃に両手で捕まえた蝶々を思い出す。
「お前そんな生き方してて、苦しくねぇのか?」
いきなりの質問に、ピタッと抵抗を辞める。
「…上杉さん?」
「真那は…人に凄く気を使う。空気を読んで行動してる。それは…すげぇと思うよ。尊敬する。
だけど…たまには頼る事したっていいんじゃねぇの?そんな生き方してたら、早死にするぞ?」
いきなりの説教に、しばし沈黙が流れた。
「…でもっ…」
「『でも』じゃねぇよ。」
「でもっ…!」
「何が『でも』だよ?周りはもっと甘えて欲しいんだよ。
…そんな空気も、読んでくれよ。」
