甘い夏  煙草の匂い





「真那…こっち来い。」


自分の方に寄せるべく、細い手首を掴む。


「やっ…」

「違うって。扇風機の前に来い。汗だくじゃねぇか。」


襲われるわけじゃないとホッとしたのか、ズリズリと立ち膝で寄って来る。


ようやく風に当たり、少し気の抜けた顔をした。



―隙あり。




真那の肩を片手で抱き寄せ、腰に手を回し、体をホールドした。


「なっ…ちょ…」



俺の腕から逃げられないのを知っていながら、必死で抵抗する真那。


…小さい頃に両手で捕まえた蝶々を思い出す。



「お前そんな生き方してて、苦しくねぇのか?」


いきなりの質問に、ピタッと抵抗を辞める。


「…上杉さん?」

「真那は…人に凄く気を使う。空気を読んで行動してる。それは…すげぇと思うよ。尊敬する。

だけど…たまには頼る事したっていいんじゃねぇの?そんな生き方してたら、早死にするぞ?」



いきなりの説教に、しばし沈黙が流れた。



「…でもっ…」

「『でも』じゃねぇよ。」

「でもっ…!」

「何が『でも』だよ?周りはもっと甘えて欲しいんだよ。

…そんな空気も、読んでくれよ。」