甘い夏  煙草の匂い




「パ…社長にも同じ事を言われました。

でも…甘え…過ぎたくないんです。」


また曇った表情になり、下をうつ向く真那。

扇風機の風が行き届いてないのか、首筋に滲んだ汗が髪の毛を絡ませている。


その首筋に噛みつきたい衝動にかられたが、『もう襲わない』という約束をしたので、グッと堪える。


「甘え過ぎる?」

「はい…。

社長には凄く迷惑かけてるんです…進也さんから聞いてますか?」

「あぁ、養子になったんだろ?」

「それだけじゃないんです…お金も…たくさん…」


…ソレは、酔った真那から聞いた気がする。


最後まで言いきれず、今にも泣き出しそうな声色だった。


「んなの社長が好きでやってんだから、気にする事ねぇだろ?

親子になったんだろ?親子で金とか心配しなくていいんじゃねぇの?」


「でもっ…赤の他人の私に…

見ず知らずの私にっ…声掛けられなければ…」


反論しようと顔を上げた瞳からは、堪えきれずにポロッと涙が一粒溢れた。


「あっ…」


溢れた涙を隠すように、再び深くうつ向いてしまった。