「俺さ、この家嫌だった時があったんだよね」


榊に視線を移すことはなく、そのまま話を続ける。


「左様ですか。そのようなお話を聞くのは初めてです」


だよね、誰にも言った事なかったし。


「別に何不自由なく暮らしてきたけどさ」


変わらない日常。

同じ毎日の繰り返し。


将来は後継ぎかどうかは知らないけれど

周りの大人連中にチヤホヤされて。


もっと別の生き方をしていたら・・なんて思ってた。


そんな時だったんだ、葵に会ったのは・・


「その時の葵ってばおお泣きしててさ」


車から逃げて全力で走って

やっと休憩できそうな場所を見つけたと思ったら


その場所で葵はベンチに座っておお泣きしていた。


それこそ


「ママ~あのお姉ちゃんどっか痛いのかな?」

「こらけんちゃん見ちゃだめよ」


なんて歩く人達から変な目で見られる始末。


何で心配されたかって?


「ううううう~~~~」


こんな感じで唸りながらうずくまっていた。

俺もどっか具合悪いのかなって思ったけど。


たまに背筋伸ばして横に置いてあった
ペットボトルに口付けて飲んでからまたうずくまったから。


すぐに具合悪いんではない、って思った。


でもどうしても気になって声をかけてみたんだ。

そしたら何て言ったと思う?