見覚えのある綺麗な人。
あの日と同じ黒のワンピースを着てあたしに笑顔を向けた。
「その節は助けて頂き本当にありがとうございました」
お辞儀も本当に綺麗で
これぞ日本の女性なんだっていうくらい・・
「あ、いえ。そんなとんでもない」
つい返事が遅れてしまう。
「あの時片桐さんに助けて頂かなければどうなっていたか・・」
「そんな、大げさな!」
「感謝しているんです、ありがとう」
「いえいえ、こちらこそ」
まさかあの時デパートの階段で転びそうになった人が
社長の奥さまだなんて・・
全く思ってませんでしたし。
「それでお礼と言っては何なんですけど」
「そんなお礼なんてとんでもない!!」
手をブンブンさせて必死でお断りをしようとすると
「そういうわけにはいきません。何でも受け取って頂けますか?」
・・何でも?
その言葉についピンと反応してしまう。
「何でも?」
「はい、私の気持ちなんですが・・」
気持ち?
気持ちって何?
ものではないってこと?
奥さまの言葉に色々考えていたその時
コンコン
大きなノックがニ回社長室に響いた。


