『ピーンポーン』と聞きたくない音が耳に入った

あたしの驚いた心臓が、ドキンと跳ね上がる

一人暮らしのあたしの部屋に、何の用よ!

もう一度、玄関のドアを向こうからボタンを押される

知らない

あたしはこの部屋にはいませんっ

ってか、眠いし、ベッドから出る気はないし、面倒ごとはノーサンキューだから

あたしは布団を頭からかぶると、ワンルームの部屋の前から人が立ち去るのを待った

今度は、ドンドンとドアを叩く音がする

まだ客人は立ち去る気持ちはないようだ

1分近く、しつこくドアを叩いたあと、鍵穴に鍵を差し込むのがわかった

がちゃっとロックが外れると、ドアが大きく開いて、明るい光が差し込んできた

ええ?

誰? 誰よ

あたしの部屋に勝手に入ってくるなんて、家の鍵は……お母さんしか持ってないはず

ってことは、お母さんが来てくれたのかな?


一人暮らしをしているあたしのために、何か持ってきてくれた?

『食事、大変でしょ?』みたいな感じで、あたしの好きなハンバーグを作ってきてくれたとか?

あたしは顔いっぱいに笑みをこぼすと、布団を蹴り飛ばした

「お母さん!」

「はあ?」

玄関に突っ立っている少年が、眉間に皺をよせて睨んでいた

「人、いんのかよ」

「誰…あんた」

「知らねえよ」

「はあ? あんたの名前を聞いてるの! 『知らねえよ』じゃないわよ」

あたしはパジャマのまま立ち上がると、勝手にあがりこんでくる少年を睨みつけた

細長い手足で、ずかずかと遠慮なくワンルームのあたしの城を汚す

肩にかけているでかいスポーツバックを、どすんと床に置いた少年は、「ふう」と細い腕で額から流れる汗を拭った

「あんた、誰?」

少年が、小さい口が動く

「だから、それをあたしが聞いてるんだってば」

「自分の名前もわかんねえのかよ」

「だぁかぁらぁ……あたしはあんたの名前を聞いてるのよっ!」

「…たく、カルシウムのたんねえ女。ヒステリおばさん、よろしくねえ」

少年はあたしを馬鹿にした口調で、言葉を吐きだした