「如何です?」
商人が、呆然としているお桐に尋ねました。
お桐は、微笑む商人をキッと睨みつけました。
「なんなのです、これは―…!!」
震える声でそう言うお桐に、商人はただただ穏やかに微笑みかけます。
「ですから、人の世の機微を知れる物と、申し上げました。」
お桐は、ぱっと鬼を投げ捨ててしまいました。鬼は土間に落ち、音もなく商人の足元に転がりました。
「嘘じゃ、まやかしじゃ、母上が…かようなことを…申される道理がない!!」
悲鳴のような声を上げて激しく首を振るお桐を横目に、商人は鬼を拾いあげながら静かに言います。
「確か、こちらの奥方様は、二番目の方だとか。
お嬢様は、亡くなられた前の奥方様の御子と伺いましたが?」
…確かに、商人の言う通りでございました。今の母は、お桐が5つの時に父が迎えた後妻でした。
以来、真の娘のように自分を可愛がってくれた母でしたが…
(母上は…いつもそのように、私を思っておられたの…?)
お桐の背筋を、冷たいものが昇っていきました。
へたりと座りこんだお桐は、力ない声で商人に尋ねました。
「……その、鬼は…なんなのです?」
商人は、鬼に付いた土を払いながら
それまでの微笑みとは違う、にぃ、と 不気味な笑みを浮かべて、お桐を見下ろしました。
「近しい者が貴女に抱く、真の声を聞ける物。
美しゅう見える世の、陰の闇を見られる物。
人の心をのぞける、実に便利な遠眼鏡でございます。
初めて御実家を出られ、外の世に触れられるお嬢様が、人の世の機微を学ぶに相応しき道具でございます。」
商人が、呆然としているお桐に尋ねました。
お桐は、微笑む商人をキッと睨みつけました。
「なんなのです、これは―…!!」
震える声でそう言うお桐に、商人はただただ穏やかに微笑みかけます。
「ですから、人の世の機微を知れる物と、申し上げました。」
お桐は、ぱっと鬼を投げ捨ててしまいました。鬼は土間に落ち、音もなく商人の足元に転がりました。
「嘘じゃ、まやかしじゃ、母上が…かようなことを…申される道理がない!!」
悲鳴のような声を上げて激しく首を振るお桐を横目に、商人は鬼を拾いあげながら静かに言います。
「確か、こちらの奥方様は、二番目の方だとか。
お嬢様は、亡くなられた前の奥方様の御子と伺いましたが?」
…確かに、商人の言う通りでございました。今の母は、お桐が5つの時に父が迎えた後妻でした。
以来、真の娘のように自分を可愛がってくれた母でしたが…
(母上は…いつもそのように、私を思っておられたの…?)
お桐の背筋を、冷たいものが昇っていきました。
へたりと座りこんだお桐は、力ない声で商人に尋ねました。
「……その、鬼は…なんなのです?」
商人は、鬼に付いた土を払いながら
それまでの微笑みとは違う、にぃ、と 不気味な笑みを浮かべて、お桐を見下ろしました。
「近しい者が貴女に抱く、真の声を聞ける物。
美しゅう見える世の、陰の闇を見られる物。
人の心をのぞける、実に便利な遠眼鏡でございます。
初めて御実家を出られ、外の世に触れられるお嬢様が、人の世の機微を学ぶに相応しき道具でございます。」



