first contact

「……あれ？　……雅ちゃん、だっけ？」

恐る恐る、声を掛けてみる。
そうだ、大家さんの娘、あの時の女の子だ。
あれ以来、何度か見かけはしたが、こんなに近くで会ったのは二度目だった。
それなのに、すんなりと彼女の名前が出て来たのは、自分でも不思議だった。

自分の名前に反応してか、雅ちゃんは俺の顔を見た。
整った眉が形を崩す。

「……あんた、誰」

彼女は、ただの呟きのように問い掛けた。
睨んでいるのか、それとも見つめているだけなのか、きりりとした目は俺を捉えて、探っている。
俺の事なんて覚えていないらしい。
自然と苦笑いが零れる。

「久住楸。俺、君んとこのアパートに住んでるんだけどな」

「……」

彼女は不機嫌なような、困った顔をしている。
俺が横にしゃがみ込むと、更に顔をそっぽへ向けた。

「それで、その久住さんが何の用ですか」

自分の身内の知り合いだと知っても、こうも素っ気ないのか。
こんなんじゃ社会は渡っていけないだろうな、とぼんやり思った。

「何の用って……。君はこんな所で何してんの？」

「聞いてるのはあたしなんですけど」

「質問返し」

そう言い包めると、彼女はムッとした顔して、口を噤んだ。
長い睫毛が下がり、視線の行方を隠す。

「……別に何もしてない。あんたには関係ないでしょ」

と、不機嫌な答えが返ってきた。
どうしても俺は気に食わないらしい。目も合わせてくれない。