【件名:ゴール裏にいます】


「名山さんありがと」

沙希ちゃんは鼻をすすり上げてからまた話し始めた。

「感謝してるのはお店の女の子達だけじゃないの。お店に来るお客さん達にも感謝してる。いろいろとあたしの知らない事を教えてくれた。それこそ本を読むだけじゃ知り得ない事まで。エッチなお客さんはどうすれば男の人が喜ぶのかとか」

そう言って沙希ちゃんはちょっと僕の方を見た。

「中でもトリニータの事を教えてくれたお客さんがいて、あたしとトリニータを出会わせてくれた。あたしの通っていた高校にはサッカー部が無くて、あたしはサッカーなんか全然興味が無かった。でもそのお客さんが一回で良いから観に行ってみなってチケットをくれたの。あたしはせっかく貰ったチケットを無駄にしたくなかったから、市陸に行った。そしたら一回でトリニータにハマっちゃった」

(沙希ちゃんにもそんな人がいたんだな・・)

「それから毎試合のホームに足を運んだ。一番安いチケット握り絞めて。そしてその頃に偶然掲示板に載っていた男の人の書き込みを見たの。その男の人の書き込みは、何かやる気ないみたいな書き込みで、でも趣味の所に『スポーツ観戦』ってあったから、あたしが感じたものをこの人にも感じて貰いたいなって思った。それが勇次くんだった・」

(沙希ちゃん・)

「初めて勇次くんに会った時も全身からやる気の無さが溢れてて、かわいそうだなって思った。で、何とかトリニータの試合に連れて行きたくて毎日その事を考えているうちに勇次くんが特別な存在になっていった。何度か会ったけど中々試合に行くって言わないから、それがあたしに火を着けちゃったのかもね。それにちっとも、手すら握って来なくて、それが逆に新鮮だったのかも」

沙希ちゃんはここまで話すと大きくフゥーと息を吐いた。

「後は勇次くんも知っているよね。これがあたしの物話。ごめんね勇次くん隠してて」

「沙希ちゃんありがとう。話してくれて・・」

僕は路肩に車を停め、涙を拭いた。
そして沙希ちゃんの頭をクシャクシャっと撫でた。

「沙希さん、ちょっと後ろに来ない?」

ここあさんがそう言うと沙希ちゃんは僕を見た。

僕が頷くと沙希ちゃんは後部座席へと入っていった。

僕が静かに車を発進させ、ここあさんは沙希ちゃんを抱きしめていた。