その日の夜、僕は明日の荷物をまとめ、ここあさんに電話をした。
彼女はお店に出勤しており、明日から月曜の夜までは休みを取ったと言う。

明日の午後7時に大分駅で待ち合わせをするように決め、くれぐれも彼女が聞きたくないような話だけはしないように念を押した。

「彼女の事愛しているのね」

そう言った、ここあさんが寂しそうだと感じたのは僕の驕(おご)りかも知れない。

出来た荷物をあらかじめ車に積み込み、CDをチェックした。
音楽は長距離ドライブには欠かせない。
お気に入りの物がちゃんとある事を確認してアパートの部屋へと戻って行った。

昼間は洗車をしてガソリンも満タンにした。タイヤの空気圧までもチェックしていた。

準備は万端だった。

部屋に戻ると、沙希ちゃんからメールが届いていた。


【件名:負けないで♪】
勇次くん、いろいろ大変そうだけど負けないでね。
あたしはいつも勇次くんのサポーターだよ。
何も出来ないけど側にだけはいさせてね♪


僕は折りたたみの携帯をそっと閉じ、深呼吸を一つだけした。

(沙希ちゃん。僕は沙希ちゃんと出会えて本当に幸せだよ)




金曜日。
今日の日中はなるべく部屋で過ごし、出来るだけ睡眠をとる事を努力した。
直接日の当たる南向きの窓の遮光カーテンを引き、部屋を薄暗くしてベットに横になっていた。

沙希ちゃんは今週最後の仕事をしている。
行きの運転は僕が通してするつもりだった。

何度かまどろんでいたものの、とても熟睡とまではいかなかった。

そんな中夢を見た。

沙希ちゃんに妊娠したと告げられ、喜びながら「結婚しよう」と言った。
彼女に口づけをして顔を離したらここあさんの顔が目の前にあった。
僕が「何で?」と言ったら、ここあさんは「あなただけ幸せになるつもり?」と答えた。
ここあさんの顔が再び沙希ちゃんの顔になり、「別れましょう」と告げられた。

目の覚めた僕は寝汗でグッショリになっていた。
携帯の時計を見ると午後6時前だった。

もうすぐ沙希ちゃんがアパートに戻って来る時間だ。
僕は熱いシャワーを浴びながらいろんな事を後悔していた。



「ただいまー!」

玄関に飛び込んで来た彼女を抱きしめた。