「沙織ー!」
カウンターの中から親父さんの呼ぶ声がした。
「あ、はーい!・・何か思い出したら教えるね」
僕は「お願いします」と言って携帯の番号が載った名刺を渡した。
前の会社のものだったが問題はないだろう。
程なくして沙織ちゃんに案内されて沙希ちゃんが現れた。
僕は生ビール、彼女は烏龍茶を沙織ちゃんに頼んだ。
「今日は飲まないんですね」
「うん、あたしお酒は良いや。合わない気がする。それに今日は車だし」
僕は飲めなかったはずの酒が飲めるようになっていた。
いやむしろ好んで飲むようになっていた。
「面接どうだった?」
「はい。思ってたより小さな会社でした。でも何て言うか良い会社なんだろうなって気はします。来週の月曜日に採用かどうかの連絡をくれるそうです」
「へー、凄いじゃん。もう就職決まるなんて、さっすがー」
「まだ決まった訳じゃないですよ」
「でも無理はしないでね。焦らなくて良いからさ。ゆっくりしたい事を見つけてね・・」
「沙希ちゃん・・・」
「うぉっほん!はいはい、お邪魔しますよ」
沙織ちゃんが飲み物を持って来た。
「この間、勇次くんの送別会って言ってたけど、会社辞めちゃったんだね」
「まあ、あの送別会は栄転のものでしたけどね」
「え!栄転断って会社辞めちゃったの?沙希さん、こんな男で大丈夫なの?」
「うふふ。こんな男だから好きなの」
「うへ、ごちそうさまです」
ひとしきり笑った後で沙織ちゃんが言った。
「そうだ、権田さんの好きなお酒があるの、自分で持ち込んで来たんだけど、俺の友人が造った酒だって言ってた。ちょっと待っててね、今持って来るから」
沙織ちゃんはそう言うと座敷を飛び出して行った。
「権田さんに何かあったの?」
沙希ちゃんが聞いてきた。
彼女にはおいおい話すつもりでいたので手間が省けてちょうど良かった。
「実は―――――」
「そんな大変な事になってるんだ、権田さん」
「まあまだ憶測の域を出ませんが・・」
「勇次くん大丈夫なの?危なくない?」
「分かりません。ただほっては置けないと思ってます」

