「あのさ!勇次くん会社辞めちゃってからの方が忙しくなってない?」
夕方沙希ちゃんから電話でこんな事を言われた。
確かに。
僕自身もこの二日間はあっと言う間に過ぎて行ってしまったと思う。
権田先輩の行方を調べる為にに奔走し、自分が自分でなくなってしまっているように感じていた。
彼女のから指摘を受けるまでその事さえ分からなくなっていた。
「今日ゆっくり食事しましょ。あたし『とり蔵(ぞう)』に行きたい。奢るからさ」
(『とり蔵(ぞう)』か、権田先輩の事、何か聞けるかもな・・)
そんな思いもあって沙希ちゃんと居酒屋『とり蔵(ぞう)』で待ち合わせする事にした。
「沙織ちゃん座敷良いですか?」
週の真ん中とあって居酒屋『とり蔵(ぞう)』は空いていた。
入口に近いテーブル席にスーツ姿の男性客が一組だけ、カウンターの奥の親父さんは備え付けのテレビで野球のナイター中継を観ていた。
「どうぞ。今日は一緒じゃないんだね・・」
沙織ちゃんが寂しそうに聞いてきた。
「彼女なら後から来ます。今日はここで待ち合わせたんですよ」
「違う、彼女じゃなくて権田さん・・あれだけ毎日来てたのに急に来なくなるんだもん・・」
「沙織ちゃん、権田先輩の事好きなんですか?」
僕の問い掛けに沙織ちゃんはうつむいて、首を縦に振った。
「一度告って振られちゃったぁ・・」
「す、凄いですね。自分から告白したって」
「権田さん、『まだ若いのに俺みたいなオヤジ構ってんなよ』って言ってた。オヤジだろうが好きになったら関係ないのにな・・」
沙織ちゃんは座敷の席に座り込んでしまっていた。
「沙織ちゃんに聞きたい事があるんですけど」
僕は気を取り直すようにして聞いた。
「最近の権田先輩におかしな様子は無かったですか?」
「おかしな様子って?」
「例えば、誰かに追われてるとか、やたら表を気にしてるとかなかったですか?」
「ううん。そんな事はなかったと思うけど・・あ、電話が良く掛かって来てたかな?権田さんが敬語使うの珍しいから覚えてる。きっと偉い人からの電話だと思う」
「電話ねぇ。また何か思い出したら教えて下さい」
「権田さんに何かあったの?」

